何をすることがデザインなのか

「デザイン」を想像する

皆さんは「デザイン」という言葉からどんなことを想像しますか?

ある人はグラフィックデザインを、ある人は空間デザインを。ある人はゲームデザインを、ある人はプロダクトデザインを。 人によって全く異なる答えを口にすると思いますが、それもそのはず。現在「デザイン」は多くの領域に広がり、その中でデザイナーの人々が様々な活動を行い続けています。

ゲームデザインとグラフィックデザインはどうやら繋がりそうですが、ゲームデザインと空間デザインはなんだか繋がりそうにありません。でもなぜか同じ単語「デザイン」を使っている。一体なぜでしょうか。

「デザイン」の根幹に「目的」あり

同じ単語が使われているということは何か根幹に共通するものがあるはずです。
私が思うに、その共通するものとは「デザインの目的」ではないかと思います。

デザインの目的は段階に分けて考えることができますが、まずデザインの最初の目的は「観察や思考によって、今の生活をよりふさわしい形に変化させる(もしくは全く新しいものをつくりあげる)」ということでしょう。

その国の玄関口となる国際空港はその国の顔になるからか、ピクトグラムなどで優れたデザインが多く、また「今の生活をよりふさわしいものに」というデザインの第一段階の目的の達成点とも言えます。

最初のデザインの活動は「適合 / 問題解決」という言葉が当てはめられますが、適合され、成熟されていくとデザインは「変化させた上で、明日の社会や明日の生活をよりよくしていく」という新しい目的を持ち始めます。

これを上で挙げたデザインに当てはめてみましょう。ゲームデザインであれば「ゲームをゲーム性やキャラクターによって面白くする(=ふさわしい形へ変化させ、より良いものをつくる)」、空間デザインであれば「空間を使う人たちに適合させ、未来の生活をより良いものにする(=変化させ、明日の生活をより良くする)」という風に考えられないでしょうか。このようにデザインは分野が幅広く、全く違うように見えて、根幹となる目的は共通していることがわかります。

洗濯機とデザインと

さて、デザインには必ず2つの目的があることがわかりましたでしょうか?
まだいまいちピンと来ていないという人も、目的と目的に沿ったデザインの実例を見てみるとすっと理解できるかもしれません。「洗濯機の進化とデザイン」というところで、より理解を深めていきましょう。

洗濯機の誕生まで遡り、誕生の理由を考えると「重労働であった洗濯を楽にする機械が欲しかったから」というのが妥当でしょう。洗濯機が誕生したのは17世紀のヨーロッパであると言われていますが、このイノベーションは、「洗濯が重労働であったという生活があり、それを変化させるための全く新しいものをつくりあげる」という、デザインの第一段階の目的に当てはまる一種のデザイン運動だと言えます。

その後19世紀頃までは手回し式の洗濯機が多く利用されており、この日本でもかつては手回し式の洗濯機が利用されていました。
20世紀に突入すると電気洗濯機が開発され、アメリカを中心に普及が始まりました。

日本初の電気洗濯機[Photo: Ddeco]

日本での電気洗濯機の普及は1960年代以降まで遅れるものも、電気洗濯機が一般家庭に普及するスピードは凄まじく1970年には世帯普及率は約90%となりました。ここまでの一連の洗濯機の変化は「洗濯という重労働から解放されるための問題解決の手段」という面が強く、デザインの第一段階とかんがえられるでしょう。

しかし、大半の人々が電気洗濯機を持ち、その生活が当たり前になってくると徐々に洗濯機の目指す方向は変化していきます。それは企業間の競争という理由もありますが、より大きい理由は「その生活に慣れた人たちがより良い生活を求め始める」というところにあるのではないでしょうか。

例えば2011年にPanasonicが発売したドラム式洗濯機では、「洗濯物の出し入れのしやすさ」という工学的なデザインによって、私たちの生活の中にある洗濯という労働時間をより良いものにしようとした取り組みを行っています。

本製品は、従来品で衣類の出し入れに不満を持ったお客様に使いやすさを調査し、ドラム投入口を従来より10cm高く※1することでさらに衣類の出し入れがしやすくなります。 また、「新・全方位シャワーすすぎ」により定格9kg洗濯において業界最速35分で洗濯ができます。「新・全方位シャワーすすぎ」では、給排水時にも全方位シャワーを動作させることにより、すすぎ効率を高め、洗濯時間を従来品に比べ約7分短縮しました。 引用 - ドラム式洗濯乾燥機「トールドラム」 NA-VT8000L/Rを発売

他にも使いやすさを追求し洗濯機はデザインされ続けていますが、2015年に発表された"Dolfi"は洗濯機と洗濯機に付随する私たちの生活すら変化させるデザインのイノベーションであったこととして特筆されるべきでしょう。

他にも使いやすさを追求し洗濯機はデザインされ続けていますが、2015年に発表された"Dolfi"は洗濯機と洗濯機に付随する私たちの生活すら変化させるデザインのイノベーションであったこととして特筆されるべきでしょう。

Dolfiは「持ち運ぶことのできる洗濯機」と言われる通り、石鹸の形をした超小型のポータブル洗濯機です。Dolfiがこの洗濯機をデザインするにあたり注目したのは、「(長い)旅行や出張などで洗濯をしたいけど、自由に洗濯できない人がいる」というところでしょう。

残念ながら発売されませんでしたが、他企業によって類似した超小型のポータブル洗濯機は実際に製造販売されることとなりました。
社会的なインパクトは大きいものではありませんでしたが、Dolfiが指し示した洗濯機の新しいデザインの方向性は、洗濯することに一定の満足を得ることのできるようになった今だからこそ、その満足にさらに満足を足すためのデザインの第二段階の典型的な成長であったと言えるでしょう。

デザインの第二段階は、満足に足す満足を満たすということであり、大衆の満足というよりもよりDolfiのような狭い範囲の人々をより満足させることが必要になってきます。電気洗濯機の開発までのデザインとDolfiのデザインが全く異なることから分かるように、第二段階のデザインは第一段階のデザインとは全く異なってくるものになっており、そしてそこでデザインを考えられるのはデザイナーだけではなく、理解が深い狭い範囲にいる人々自身であると考えています。

様々なものによって満足している今だからこそ、デザインはデザイナーだけではなく様々な人が知っておくべきものであります。次回からのDESIGN SHORT SHORTではデザインの考え方の入口のようなものを紹介していきたいと思います。

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