メッセージとデザインはどう関係するか

メッセージは無意識にデザインされている

私たち人間はかつてより様々な形でメッセージでコミュニケーションを行ったり、記録として保存を行ったりしています。そのメッセージの形は時代や目的によって変化し続け、様々な方法が模索され続けられ、これらのメッセージの保存方法の変化や多様性は”よりふさわしい形に変化させる”というデザインの目的の第一段階の例として考えられます。
今回はメッセージの背景にある幾つかの要素から「保存期間」というところにスポットを当て、観察することで過去から今に至るまでのメッセージのデザインについて考察していきましょう。

保存期間とデザイン

メッセージは何かを伝えるためのものであり、そのためにはそのメッセージが何かしらの形で保存されていなくてはなりません。伝えたいメッセージが保存がされていなければ、メッセージの存在する意味は消失してしまいます。そのために、我々人類はメッセージを保存するために、石碑や紙といった様々な方法を模索していきました。そんな保存の方法に実はデザインのストーリーが潜んでいます。

破壊的なメッセージのデザイン

さて、メッセージは保存されるべきものであるということは皆さん御存知の通りでしょう。世界各地で見られる石碑はメッセージの長期保存の典型例とも言えますし、皆さんが普段から送るメールやSNSでのコミュニケーションも後から見返すことができるように保存ができるメッセージとしてデザインされています。

しかしながら、2016年から2017年にかけて流行したSNSアプリの一部は、メッセージと保存という切ってもきれない関係にあったものをあえて断絶し、新たなメッセージのデザインを形成させることに成功しました。 これらのアプリはメッセージを送り、相手がメッセージを受けとり確認した直後にメッセージが消滅する仕組みとなっており、メッセージを保存することをほぼ拒絶しています。

ではなぜ、後から見返すことができるメッセージの形を否定し、そしてそのスタイルが若者を中心に浸透したのでしょうか。
これには、様々な理由が考えられますが、大きなところではTwitterやfacebookなどといった大手SNSでどうしても発生する「いいね」などの評価軸に人々が徐々に疲弊してしまった、というところが大きいでしょう。
SNSの台頭により私たちは、「いいね」といった数値の指標に振り回され、メッセージでコミュニケーションをとることに一種の恐怖であったり面倒さを感じるようになってきました。
Snapchatのような超短時間でのみ使用できるメッセージのコミュニケーションは、「このメッセージを相手が見たらどう考えてしまうのだろう」という保存をすることによって発生する弊害を、超短時間(10秒程度)の保存にのみ留めることで、メッセージの根本的な目的であるコミュニケーションをより本質的なものにさせることに成功しているとも考えられるでしょう。

メッセージのデザインをデザインの第二段階の目的に沿ったものにするとき、長い間人類が築き上げてきたメッセージと保存の関係性をなくすという発想と、メッセージと人間の関係(=インタラクション)やそれに纏わる社会変化を考えることが大事だということが、メッセージのデザインから見えてきます。

永遠を目指すメッセージ

さて最初にイレギュラーな破壊的なメッセージデザインを紹介しましたが、次は正統派の長期保存を目指すメッセージのデザインをご紹介しましょう。

長期保存を目的としたメッセージの代表例に石碑があります。ここでは例として東北地区に多く存在する「大津浪記念碑」で考えていきましょう。

津波の記録を示すだけであれば多くのものがそうであるように、紙での記録や口伝えでも十分に可能であると言えます。まして、記録手段が豊富になった近代以降であればわざわざ石碑を作る必要もないと考えられるかもしれません。しかしあえて石碑という形でメッセージを記録したのはこんな理由があったのではないでしょうか。

石碑は津波が来る場所を正確に示す上、移動することがない。また、紙や木材へのメッセージよりも耐久性が高い。 大津浪記念碑に重要な「正しい場所を、長い時間示し続け、警告する」というこの目的をしっかりと達成できるという理由から石碑でメッセージを保存するに至ったのでしょう。

さて、石碑での保存は地球上であればかなり長い期間、メッセージを保存し続けられますが、それが宇宙空間で永遠ほど長い時間保存させることを目的とした場合はどうでしょうか。

1977年に打ち上げられたvoyagerに積載されているゴールデンレコード。ここには地球についての情報が記録され、現在も宇宙空間を飛び続けている

1977年に宇宙へと打ち上げられた2機の探査機「Voyager」にはゴールデンレコードと呼ばれる地球についての情報を記録したディスクが宇宙の何処かに存在する可能性のある生命体へのメッセージが搭載されました。このレコードは人類を代表して地球から宇宙へと放たれた人類が発信してきたメッセージの中で最も偉大なメッセージであると言えるでしょう。

このメッセージは、未だに宇宙人の存在が定かでないことから分かるように、誰に伝えられるのかが分からないまま、そして伝わるまでの時間が全く分からないまま宇宙へと放たれたために、当時の人類によって考え抜かれた最良のデザインによってつくられています。

先ほど紹介したように、人類は長期間保存する際に石碑を用いることが多かったのですが、このゴールデンレコードはその名の通り、金属製のレコードとなっており、音声形式のものとなっています。
こうなった理由としては、
・物を大量に積載できない宇宙船で、より多くの情報を伝達する必要があった
・文字の場合は、受け取る可能性のある他文明の生物が理解できない可能性が高い
ということなどがあげられるでしょう。

他にもこのレコードには、素材のデザインも行われています。
レコードにはウラン238がコーティングされており、同位体組成を解析し、ジャケットを含めたレコードの情報と組み合わせることで、このレコードがいつ飛ばされ、どこから飛ばされたのかを把握できるようになっています。

このように、このレコードには超長期的保存を目的とし、未だ見ぬ生命体へのメッセージとして、様々なデザインが施されていることが分かります。

デザインする時に大切にしなければならないこと

破壊的なメッセージのデザインは、人間の生活や社会に適合したデザインを行うためには、現在の社会を広く理解し、そして過去の経験や常識では当たり前とされていたものとは違ったとしても、それが適した解である可能性があることを示しています。

一方で石碑やゴールデンレコードといった長期的なメッセージの保存では、最適解を考えるためには、目的を理解した上で、その目的を達成するための未来を想像しながら、最適解を導くことが必要であるということを示しています。

これらメッセージで示すことはつまり、皆さんが何らかの「デザインをする」という行動をする時、一番最初に「目的を理解」し、「目的を達成し続ける(した)未来を想像」し、「その方法を周辺分野を理解」することで、最適解を導いていくことが非常に大事になってくるということです。

次回は、最適解を導き出している途中のもの、「自動販売機」にスポットを当て、どのように最適解を見つけ出そうとしているかを考えていきたいと思います。

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